帝王院高等学校

壱章-導かれ征く者の系譜-

ベルサイユとミルフィーユと、時々オタク

「改めて見ると、何か高級ビジネスホテルみたいです」
「高級な時点でビジネス系ではないと思うのは、俺だけでしょーか」
「じゃ、じゃあやっぱりラブ系!どうしようどうしよう、心の準備が…!」
「うん、男二人でラブホはないと思います」

受付で渡された書類とBL小説お馴染みのテレフォンカード…ではなく、IDカードなる未知の物体を手にまるでRPGの商人僧侶になった気分で煌びやかなダンジョンを突き進む。

「いや、そこ何で勇者が居ないんだよ。因みにどっちが商人なの」
「やっぱりタイヨーは萌の宝庫だから、スマイル0円モエ0円」
「だったら俊は笑いと驚愕の宝庫だなー」
「む?然しタイヨーってば癒しのオーラが出てますし、やっぱり僧侶系?むむむ」
「良く悩む奴だなー」

本気で悩み始めた眼鏡を何ともなく放置プレイする事にして、Sクラス寮長の部屋まで歩いても歩いても終わりが見えない回廊をひた歩いた。

白亜の壁面には飾り窓、飾られた絵画や壺は如何にもな高級オーラを発している。
如何にも平凡な太陽は中等部より広い、と関心なさげに呟き、一方、私立とは名ばかりの築40年と言う中々に昭和建築が売りの中学出身であるオタクと言えば、

「コマンド調べるで薬草とか出てきそうょ、あの壺…」
「つか、あの壺そのものを売っ払ったら薬草なんかダース単位でまとめ買い出来るだろーねー」
「触ってもイイかしら?壊したら弁償かしら、臓器売ったら支払えるの?」
「ミステリー小説読み過ぎ」

通りすがる生徒達を横目に、何処か強張った表情の太陽が鞄を漁った。

「ゲームするにょ?」
「あー…、視線が目障りだから」
「視線?…ふ、やっぱりタイヨーは皆から注目される存在なんだねェ。僕は嬉しいですっ!」
「常に主人公として不特定多数から見られてる俊には勝てないよねー」
「言うよねー。僕みたいなチキンヘタレウジ虫オタクが主人公になれる訳ないと思います!」

直ぐ様取り出した携帯ゲーム機を見つめた俊は、己のまともなものが一切入っていない鞄から煌びやかな装丁のROMディスクを取り出した。

「ん?それ、もしかしてソフト?」
「うん。暇を見て何回かプレイしたんだけど、いっつもベストエンディングが観れなくて」
「じゃあ、俺がちょこちょこ進めても良い?」
「やってくれるにょ?!」
「おう、初めて見たソフトは一回プレイしたいし。暫く借りても、」
「あげます!あげます!まだまだいっぱいあるしBLゲーム!」
「へぇ、じゃあ一日一本攻略しても暫くは飽きないなー」
「きゃー!R18ものはまだ早いかしら〜!いや初めの内からBLに染めていくべきかしらー!」

何やらテンションMAXな俊を横目に、呆れ混じりな笑みを一つ。
シャッターチャンスを逃した眼鏡が壁を悔しげに叩いたが、早速ゲームを起動したらしい太陽に気付いて跳ねる様に近付いてきた。忙しいオタクだ。

「あれ?これ、恋愛シミュレーションもの?」
「うん、まずは王道からですぞ」
「んー?王道と言えばRPGじゃないか?」

首を傾げながらもキャラクター設定に勤しむ太陽の姿をデジカメに収めてみたり、何やら妖しい雰囲気の二人組を見付けて悶えてみたり(うっかり写メって待ち受けにした)、重い箱を抱えている小柄な生徒に母性本能を擽られつつ見送ってみたり(だってもしかしたら道中イケメンが手を差し伸べるかも知れない)。



「ハァハァ…、怖い所だょ帝王院…!ハァハァ…、入学初日から萌が萌えして、モ、モエェェェ!」

発狂したオタクに罪のない生徒達がビクッと竦み上がる。

これから寮長の部屋に行かなければならない俊は、きっと寮長に一目惚れされるであろう太陽を思い浮かべ腕を組んだ。

「やっぱり、爽やか系な感じかな?あ、でも北寮長は一年Sクラス担任の先生だったっけ?だったらホスト系じゃなきゃ許せない」

宮殿の様な学生寮は5区画に分けられる。(※帝王院学園高等部入学案内より抜粋)

まず、1Fにエントランスと言った方がしっくりくる玄関と、警備員が在中する受付がある中央棟。
2Fから年中無休・24時間営業のコンビニやクリーニングやらが並ぶ購買エリアが3Fまで続き、4Fがレストラン…つまりは食堂エリアらしい。
最上階である5Fが大浴場、満天の星と都会の喧騒を知らない夜景が素晴らしい巨大露天風呂完備と言うのだから、最早阿呆としか言えない。

続いて東西の棟は一般生徒が詰め込まれた3Fまでの小ぢんまりした建物だ。
二人部屋以上が基本らしく、いつも人で溢れている。部活動の合宿なども行われているとか何とか。

東西棟に並び小ぢんまりした南棟は教職員の居住区で、会議室やら物置部屋やらがあるそうだ。

最後に、現在地『北棟』。
Sクラス生徒の居住区で、4Fがだだっ広い休憩所と言う名の室内庭園、最上階5Fは中央委員会と言う一般に言えば生徒会執行部が住まう事を許される居住区だと言う。


各棟、全てが中央棟に続いている為に、一般生徒がSクラス生徒を目に出来るのはほぼ中央棟のみだ。
Sクラス生徒は東西棟を行き来する事が許されているにも関わらず、一般生徒が北棟に立ち入る事は許されていない。規則を破れば処罰があり、最悪退学になる。


「しっかし、退学はやり過ぎじゃないかィ?」
「あー…、降格した奴が元の暮らしを忘れられなくて無断侵入するんだ、たまに」
「へぇ」
「そうなると、ソイツの代わりに…つか、ソイツと入れ替わりに入寮した生徒にマジで刃傷沙汰を起こしたりするんだ」
「八つ当たりザマスね」
「そうだよ、逆恨みも良いトコだ。でも、それが起きる様なシステムがそもそも間違ってるんじゃないかって、俺は思う」
「む。タイヨーが言うなら、僕もそう思います。チェンジが必要だ!YES we can!」

ゲームを見つめている太陽の真剣な横顔に一度頷いて、漸く見えてきた曲がり角を跳ねながら進もうとしたイエスマン眼鏡は、





ドカっ!!!



「むにゅん!」
「っ、…痛ェなボケ」

潰れた様な声と共に俊と黒縁3号が吹っ飛び、オタクの頭と正面衝突したらしい肩口を押さえながら壮絶な眼で睨んでくる男を見上げた太陽が、



「………おいおーい」

ポロリとゲーム機を落とした。
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©Shiki Fujimiya 2009 / JUNKPOT DRIVE Ink.

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