紅き黎明の花嫁

始まりの宴

This is their first sight

 圧倒的な強さを誇る皇帝が、その時、彼にとって酷く脆弱なものに思えた。



『殿下っ、お下がり下さい…!』
『ちっ、撤退しろやテメェら!』

 世界を統べるべく生まれ落ちた彼は血に濡れた剣を握ったまま、ただ呆然と東の空を見つめている。




 東の空は徐々に宵闇を西へ西へ追い払っていった。




『怯むな!撤退は許さん、突き進め!』
『へ、陛下…』

 屈強な戦士達は残らず戦意を喪失し、武器も名誉も仕えている筈の君主さえ投げ捨てて逃げていく。
 何事かを頻りに叫び散らす皇帝の憤怒の様相も、すぐ近くに窺える白亜の宮殿も、己が其の地へ訪れた目的も何も彼も全て忘れ去って、彼はただただ地平線を紅に染める暁の空を眺めているだけだ。



『くそ、どうすりゃ良いんだよ…!』
『フォンナート、俺が出る。…兄上を任せた』
『馬鹿抜かさないでちょーだい、テメェには新しい帝国を動かす役目があるでしょ〜。だから、』
『巫山戯けるな、…お前一人のうのうと殺すものか』
『…泣かせるねぇ、皇太子殿下』


 血に濡れた剣の意味も、己の立場も宿した力も、この手が求めるものへの執着も等しく全て、その光景は容易に奪っていく。



『…来るぞ!』
『ちっ、逃げも隠れもすっか!俺様はラグナザード月宵騎士団、グレイブ=フォンナートだ!』
『煩い』
『HEY!HEY!HEY!掛かってきやがれ、田舎者が!』



抵抗など何一つ出来なかった。







『………退け、蛮族の民共よ。』



 それは魂を呑み込む酷く凜とした声。




『己が神の化身、宵の明星へ祈るが良い』



 太陽を従え赤い衣を翻す神々しいまでの威圧を湛えた金色を、彼は忘れない。









『我が黎明の裁きを畏れるならば』
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©Shiki Fujimiya 2009 / JUNKPOT DRIVE Ink.

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