帝王院高等学校

陸章-刻まれし烙印の狂想曲-

アレがアレして!きわどいミッドナイト

「いきなりごめん。ちょっと良いかな?」
「アンタが話し掛けてくんの、珍しいねえ」

上級生、だろうか。
面倒そうに起き上がった隼人が、太陽の肩に手を置いて立ち上がる。

「で、なに?」
「マネージャーに連絡くれって、父さんが」
「あは。いよいよタヌキご登場ってわけ?ま、最近抱いてやってないからあ、仕方ないかあ」
「駄目だよ、スキャンダルの火種は…」
「はいはい。あっちが乗っかってくんだもん」
「こらこら」

何の話かは判らないが、きわどい話なのは何となく判った。息を殺しながら二人を見つめていると、穏やかそうな雰囲気の綺麗めな生徒が僅かに驚いた表情を浮かべた。

「時の君」
「う、え?」
「三年の新宮です。初めまして」
「は、初めまして、一年の山田です」
「ふふ、知ってる。ハヤトがお世話になってるって、だから最近はうちの父も楽しそうなだよ」
「余計な話すんのやめてよねえ」

隼人にひょいっと抱き上げられ、子供を抱っこする様に抱えられる。余りの恥ずかしさに思わず頭突きをしたら、二人で崩れ落ち、太陽は床で派手に頭を打った。

「「ぎゃ」」
「はは、ははははは」
「っ、痛い」
「わ、笑わないで下さい新宮先輩…うう」
「確かに楽しそうだ。…良かったね、ハヤト」

何とも言えない表情でそっぽ向いた隼人は、そのままズカズカと歩いていく。慌てて立ち上がった太陽の肩を優しく止めた彼は、穏やかに微笑みながら首を振った。

「照れてるだけだから、一人にしてあげて。ああ言う時のハヤトは、何言っても知らん振りするから」
「良く知ってるんですね」
「ハヤトがデビューしてからの付き合いだからね。最初はどうなるかと思ってたけど…ほら、あの性格だろ?深夜徘徊はするは喧嘩はするは、警察に捕まらなかったのが奇跡だよ」

懐かしそうな台詞に、この人は芸能界の人なのかも知れないと思う。聞いても良いものか悩めば、

「父がハヤトのプロダクションの社長なんだ。と言っても、僕は養子」
「そうなんですか」
「所属してたタレントが産むだけ産んで育児放棄して、養ってくれてるんだよ」
「っ」
「気にしないで、この世界には良くある話だ。…だからかな、ハヤトにも幸せになって欲しいと思うんだ」

何だ。
隼人にも、こう言う恵まれた人脈があるんじゃないか。

「彼を宜しくお願いします」
「はは。それは僕の台詞なんだけどね、時の君」

少し、安心した。















暖かい。
静かな心臓の音が聞こえる。

それ以上にバッコンバッコン煩い爆音も聞こえるが、今は無視しよう。ああ駄目だ、ヒクッと喉が痙き攣って変な声が出そうになった。

「"Are you ready" Halloween comming soon again,all right let's going night.(準備は整った。今年もまたハロウィンがやってくる、さぁ夜に繰り出そう)」

上手すぎる歌声と同調した手に背を優しく叩かれながら、何でこうなったと叫び出したくても今更だ。

「You want ark you, trick or treat. But I have only love for you well I am crazy.(君は合い言葉を求めていて、だけどそう、狂った僕は君への愛でいっぱいだ)」
「ひゅい」

凄いフレーズに変な声が出た。
顔から火が出るくらい恥ずかしいが、日向は余り気にしなかったらしい。ヨシヨシと頭を撫でられて、その懐の広さに感銘した。
逆の立場だったら…まぁ、盛大に揶揄いながら抱っこしてやるが、歌ってやりながらポンポンはしないだろう。確実に。

「…どうした?眠れねぇのか?」

頭の上から掠れた声が落ちてきた。
ビクッと明らかに震えた佑壱に、流石に違和感を覚えたらしい。

「おい」

グイッと体を持ち上げられ、訝しげな日向と目が合う。一緒で唖然とした表情に変わった日向の眼差しに、今の自分はどう映っているのだろう。

「テメェ…正気、か?」
「しょしょしょ正気なんかじゃありません!いつでも自分は正気ではないでありましゅ!」

噛んだ。
晴れやかに噛んだ。
死にたい。正気じゃないとはどう言う事だ。何の宣言だ。いっそ殺してくれ、そうだ切腹しよう。

「死にます。今までご迷惑ばかり掛けて本当スんませんっした。今後はあの世から光王子様が性病に罹らない様に誠心誠意お祈りしながら、マザーテレサとドーナツ齧りながらワイドショーを観たいと思っております僭越ながら…」
「落ち着け」
「はい、落ち着いたら切腹はやっぱり怖いので宜しければ介錯をお願い出来ますでしょうか光王子将軍、貴方に成敗されるなら本望です有難うございます」
「テメェ、正気だろ」

落ち着きがないのを咎める為か否か、耳を齧られた挙げ句むやみやたらエロい声で囁かれた。
一気に落ち着いた嵯峨崎佑壱と言えば肩を落とし、俯いている。

「おい」
「………イレ」
「あ?」
「トイレ」

機敏な動きで立ち上がり、デューク更家も拍手喝采するだろう無駄のないウォーキングでトイレを目指したと言うのに、


何故。

「何、逃げてんだよ」

シャンデリアを見上げながら、ライオンにマウントポジションを許しているのか。

「…ライオンって何だ」
「はぁ?ライオンって何がだよ」
「俺が知るか!」
「逆ギレかよ」
「いやん、犯されるぅ。きょわーい、初めてなんだから、優しくシ・テ」

駄目だ、馬鹿すぎる。
そうか俺は馬鹿なんだ。初めて知った。痛感した。恥ずかし過ぎて死ぬのも嫌だ。死んだ後にあれこれ噂されるかと思うと、簡単には死ねない。だけど死にたい。

「おい、嵯峨崎」
「あんま前立腺いじるとあれだ、癌になるかも知れんから、程々にされよ。尻は大切に」
「真っ赤だぜ、顔が」

馬鹿にするでも哀れむでもなく、真顔で言われて爆発した。バッコンバッコン騒がしかった心臓が吹き飛び、今やズッコンバッコンと全身が火を吹いている。

「然も…何でこれ、」
「ぎぃやあああぁあああああぁ!!!」

バレた。
耳ハムハムとエロボイスの攻撃でとんでもない事になっていたエクスカリバーが、バレていた。誰に?…高坂様に。

「ヒィイイイイイ」
「煩い」
「…」
「いきなり黙んな」
「これはっ、海綿体に血液が集まった事による圧力によって硬度を増したエクスカリバーでして!将軍に危害を加えるつもりはこれっぽっちもなくっ、どちらかと言えば同じサムライとしてですね!」
「やっぱ黙れ、何言ってんのか皆目理解出来ねぇ」
「…おう、俺も判らん」

髪をガリガリ掻きながら立ち上がった日向を見やり、股間を押さえながらもぞもぞ起き上がった佑壱は漸くいつもの冷静さを取り戻していた。

何も恥ずかしい事などない。
そうだ、自分よりデカい隼人を抱き締めて寝た事もあるし(インフルエンザで寒い寒いと寝言を言うからだが)、彼女と営んでる途中にカルマのメンバーが入って来た事もある(廃墟をアジトにしていた時の若気の至りだ)。
銭湯では背中は隠すが股間は隠さない姿に拍手が湧き、常連客らしいオッチャン達から拝まれた事もあった。

まぁぶっちゃけ、俊に色目を遣う女達を摘み食いした事もあるし…いやいや、彼女が居ない時だけですよ!要みたいにしょっちゅうじゃないから!俺、そう言う所は煩い気質なんで!

「こぉさか」

優雅に紅茶の準備などしている日向を恐る恐る呼べば、振り向かずに何だと返してこられて痙き攣った。

「あ、あの、ちょっと一人にして頂けませんかね…?」

実際の所、このまま日向が揶揄いながら抜いてくれたら楽だよな、などと考えていた訳で。
何だかんだ言っても、やはり他人から与えられる快感は凄い。然もホモ帝王のテクは学ぶ所が多々あった。いや、日向の場合バイになるのか?

「何で?」
「さ、察して下さい」
「トイレはあっちだ」

知ってます。
ええ、知ってますとも。
但し立ち上がる元気があればの話ですよ、ええ、立ち上がる元気は股間が全て持って行ってしまわれました。足に全く力が入りません。

「こぉさか」
「エロ犬、キモい声出すな」
「…抜いて良い?」

頭が朦朧としてきた。
寝起きだったから元々余り頭が働いていなかったのだ。あの酷い眩暈も低血圧の招いたものだろう。

「何やってんだ阿呆、目障りだから向こうでやれ」
「ふ…こぉさか、冷たい目も素敵だぜ」
「…極めて馬鹿だなお前はよ」

紅茶の良い匂い。
観客一人のストリップに興奮する馬鹿は、確かに自分くらいだ。

「熱ぃ」

必死に熱を沈めようと手を動かした。
高そうなカップを啜っている長身は立ったまま、無機質な眼差しで眺めているばかり。

理性の欠片がやめろと言った。
本能が足りないと叫んでいる。
どちらに耳を貸すかなんて、普通だったら考えるまでもない。


「たすけて」

こんな所で下半身丸出しにして、あられもない表情で馬鹿な事を。正気になったら死ぬしかないと判っていて、



「ひなた」


落ちていく高価なカップと、琥珀の液体を視た。





喉から絶えず零れ落ちた嬌声は誰のもの。
大理石を濡らす琥珀の液体を、滲んだ視界で見つめていた。





琥珀の眼差しに、貫かれながら。













「うわー、賑やかだねー」

左席委員会一同と、武蔵野を交えた大人数で眠らない並木道を歩く。目的地はアンダーラインだが、あっちこっちで明日の準備に勤しむ生徒が見えた。
西園寺学園でも幾つかの屋外催しをするらしく、帝王院とは違うジャージ姿で作業している。

「ジャージって、西園寺には体育がないんじゃなかったっけ?」
「え、そーなん?(*´Д`)」
「流石、帝王院とは違って生粋の進学校ってわけだあ。体育とかかったるいもんねえ」
「サボってばかりだと進級に響きますよ。今のお前には免除権限がないんですからね、ハヤト」
「Aクラスは週に二回は体育があるぜ」
「あ、でも藤倉君と高野君は、体力測定の時に体育科より凄かったね」

余り元気がなかった武蔵野が漸く言葉を発し、健吾が当然とばかりに親指を立てた。

「あれ、シロップじゃん(*´Д`*)」
「加賀城って、ああしてると頼りがいあるよねー。カルマじゃ散々だけど…」

きびきび皆に指示を出しながら、西園寺学園の生徒も交えて作業に勤しんでいる獅楼は、紅蓮の君親衛隊隊長として工業科の親衛隊員を率いているとか居ないとか。なので不良からも一目置かれているらしい。

「うひゃ、シロップなんか一撃で倒せるっしょw見ててタイヨウ君、ぶっ飛ぶからアイツ(*/ω\*)」
「倒さんでいい、倒さんでいい」

Aクラスの頼れる兄貴、だろうか。健吾と裕也が全く役に立たないのだから、彼の健闘を祈りたい。

「さてと」
「兄さん!」
「…うん、じゃあ行こうか皆」
「相変わらず痺れる程つれないね、アキちゃん」

デコをきゅぴんと光らせた太陽がいきなり殴りかかったが、華麗に躱した美貌は両腕を広げギュムッと太陽を抱き締める。

「離せ!」
「離したらアキちゃん逃げるだろ」
「アキちゃん言うなー!」
「西園寺生徒会は暇な様ですね」

ポカンと皆が硬直する中、要だけが冷静だ。

「君達程じゃない。聞けば、左席委員会と言うのは肩書きだけの公安だそうじゃないか。中央委員会は一見しただけで優秀そうだし、少なくとも君達よりは」
「ギャヒ!いきなり正論!Σ( ̄□ ̄;)」
「あは、サブボスのオトート可愛くないねえ」
「アンタ、モデルのハヤト?」
「だったら、なーに」
「神田詩織の息子だろ?」

全員に電撃が走り、弟に抱き締められながら呆然と隼人を見上げた太陽は、今にも人を殺せそうな眼差しの、物凄く傷付いた様に見える表情を見た。

「神田詩織って、こないだアカデミー賞取った?(;´д⊂)」
「ノミネートじゃなかったかよ」
「また、大物が出て来ましたね…」
「神崎…」

握った隼人の拳が震えている。
あの女優に子供は居ない筈だ。それなら隠し子、そんな話を聞いた様な気もするが、隼人は隼人だからと深く考えていなかった。

「…俺、は」
「ぷはーんにょーん!ヒーハー!!!」

隼人が何か言う前に大気圏を震わせたその声の主は、誰もが知っていたに違いない。
| → | 目次 | INDEX
©Shiki Fujimiya 2009 / JUNKPOT DRIVE Ink.

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル