帝王院高等学校

陸章-刻まれし烙印の狂想曲-

続々と集まる濃いキャラに埋もれそう!

「ビ、ビビった…。まだ心臓バクバク言ってる…」
「えっ?ちょっとおっぱい触らせ…いひゃいいひゃい、ひゃん!ふにょん」

心臓を押さえ、へなへなと座り込んだ平凡に、鼻の下を伸ばした変態が素早く手を伸ばし頬を激しく抓られた。
限界まで抓り伸ばした皮膚をパチンっと離した山田太陽は、そのまま無言で平手打ちを喰らわせ、左頬の有り得ない痛みに混乱しているオタクから目を離す。

「まかり間違ってたら死んでたかも知れないんだぞ!後先考えずにあんな危険なコトするなんて、それで帝君か!」
「す、すみませぬ」
「何で助かったんだよ!って言うか何であんな所に居たわけ?!え?!いっつも勝手に動き回って心配掛けて、少しは反省する気にはなんないの?!」
「あああにょ、」
「…もう頭に来たぞ、俺にだって我慢の限界があるんだ。納得させる言い訳があるなら聞いてやる。ないなら絶交だ」

俊は勿論、隼人、要、健吾、裕也が感電した。今時、絶交を宣言する高校生がいるとは。
但し、遠野俊に至っては哀れなほど蒼白な顔色で、今にも風化しそうである。

「す、捨てないでェ!いやァ!俺を捨てるのかァ!このひとでなしッ、鬼ッ、小悪魔めェエエエ!!!根暗な俺を弄んだのか、太陽ィイイイ!!!」
「はいはい、ひとでなしね、大いに結構。帝君だからって何でも思い通りになると思うなよ、ロクデナシが。あの高さから無防備に滑り落ちて何で無傷。ブシャっと潰れとけよ、そこは」
「…あれは、潰れたトマトになりそうな瞬間、クシャミが出て…体勢がこう、クネっと」

クネっと腰をクネらせたオタクが震える眼鏡で宣うに、頭から落下し今にも地面に衝突しそうな瞬間、まさかのクシャミで体勢が入れ替わり無事着地出来たらしい。
はぁ?と不細工な顔を晒した太陽を余所に、会話を聞いていたギャラリーから喝采が沸いた。

「…今思えば、火事場の萌力が発揮したに違いないにょ。萌神様にお礼参りに行きます」
「たまにはまともな事が言えないのかい、お前さん」
「畏れながら、オタクはいつでも真剣でございますん。全力放送」
「あっそ。だったら、何で追い詰められてたか説明しろよ。どっかの親衛隊に追われてたみたいだけど」
「それが奇妙な事にだなァ…」

眼鏡を押さえ、クルっとオターンを決めた主人公は意味もなく腕を組み、ナナメ45度のナルシーポーズで俯く。
見ていた全ての人間が沈黙した。キモい。

「ありとあらゆる事柄が、容赦なくこの腐男子を襲った。俺と言う僕は、悲しみに陶酔する暇もなくチワワの群れに放り込まれ…。チワワの可愛さに狼になるかと思われたも束の間、ラストサムライが蔓延る夢の島に放り込まれ、アタイはチーターになったのょ」
「…」
「だがチワワもまたハイエナだった。迸る馬力で追い掛けられ、バナナキャンディーの包み紙で転んだミーは、最後の力で希望の扉へ飛び込んだ」
「つまり、可愛い親衛隊達に誘われてホイホイ付いていったらゴキブリまみれのゴミ溜めで、ビビって逃げたらゴミで足を取られて転んだ挙げ句、偶々開いてた窓から落ち掛けた、って?」
「ふぇん、そこはラストサムライと言って欲しいにょ!まだ4月なのにガサガサ居たなり!うぇん、ガチバイブス!」

ギャラリーから拍手が沸いた。
カルマ幹部は感涙を目尻に光らせ、あの説明で理解した山田太陽を讃えている。
小刻みにバイブレートしている黒縁眼鏡は、ラストサムライの恐怖から抜け切れていない様だ。

「…はぁ。もういいよ。とにかく、何回も言ってるだろ。勝手に歩き回らない!一人にならない!立場をいい加減理解しろ!判ったか!」
「イエッサー」
「次また馬鹿やらかしたら、目隠ししたお前さんの目の前で生BL繰り広げた後、絶交するからな」
「ヒ、ヒィ、それだけは…!どうかそれだけは勘弁なさいませェイ!暗闇で音声だけを頼りに妄想するなんて、命が幾つあっても足りないにょ!ひっく、ごめんなさいごめんなさい、許して下さい、ひっ、ひっく」

平凡の足に縋り付き、なりふり構わず啜り泣く眼鏡に皆が目を逸らした。デコを押さえ、短い息を吐いた太陽は吊り上げた眉から力を抜き、手を差し伸べる。

「ほら、もう判ったから立ちなよ。皆が吃驚してるからねー」
「ふぇ、うぇ、ぐじゅ」
「ティッシュあげるから鼻拭いて、はいはい、眼鏡ズレてるよー」
「うっうっ、優しいタイヨーちゃん…アイラビューンモア」
「はいはい、ありがとねー」
「アイウォンチューフォーエバ」
「やー、照れるなー。判ったから尻揉むな、匂い嗅ぐな、ハァハァすんな」

変態を貼り付けたまま、がっくり肩を落とした太陽は引き剥がすのを放棄した。何はともあれ、俊が何らかの理由で落ち込んでいる事に気づいたからだ。
着地してすぐに太陽へ笑いかけた口元は、改めて考えれば、安堵からのものとも思える。

「あ、そうだ、俊」
「くんくんくんくん」
「俊のオジサン?そこに居るよ」
「ふんふんふん…ほぇ?オジサン攻め?誰の?」
「ほら、そこ。何か、西園寺の会長に似てる人が居る」

太陽が指差す先、鼻息で曇る眼鏡を拭ったオタクが顔を向け、ビシッと眼鏡にビビを刻んだ。
ポケっとこちらを見つめてくる美形に、物凄く見覚えがあった。

「な、直江、叔父さん」
「…俊、だよな?暫く見ない内に、随分…変わり果てて…」
「何でこんなむさ苦しい所に…悪い事は言わない、速やかに帰って全て忘れてくれ。改めて挨拶に行きます、ではさようなら」
「待て待て待て、何だ久し振りなのにその他人行儀な態度はっ。あの寡黙で落ち着いていた俊は何処に行ったんだ?!秀隆兄さんと並べば確実に父親と間違われてた、俺の甥っ子は!」
「ひょえええええ、後生でございますっ後生でございますっ!やっと定着してきたマイ高校デビューを台無しにする破滅の呪文はお止めになってぇえええいこらさー!」
「モガッ、フガッ、モゴゴ、ゲフ」

ひょいんっと叔父に張り付きニタリと痙き攣った笑みを浮かべた黒縁は、カサカサとゴキブリの様に叔父を引き連れ、逃げようとする。
だが然し、着物姿の精悍な男前に行く手を阻まれ、カサカサ避けるが、ひょいひょい邪魔されてしまう。キュピンと光る眼鏡の縁を押さえた俊は、口を封じている叔父を小脇に挟んだまま、着物長身を僅かに見上げた。

「…ふむ。もしや、このイケメン医者のお尻をお望みで?」
「フゴー?!」
「おや、私は確かに帝王院学園のOBだが、特にそう言った趣向は持ち合わせて居ない。実につまらない、一般的な中年だ」
「ほほう、皆さん最初はそう仰います。自覚しない内に芽生えた恋心は忽ち身も心も支配し、気づいた時には既に手遅れ…恋の病は末期ですにょ」
「ふむ。何が何でも私と遠野院長をつがわせたいのかね、君は」
「だって!こんな精悍なアダルティー、生で見たの初めてなんですもの!ハァハァ、ちょっとすいません、このガマグチにサイン頂けますかっ?!宛名はシュンシュンでお願いします…!」

ポイッと叔父を着物男へ放り、胸元から取り出したガマグチレッドからサインペンと、一回り小さいガマグチレインボーを取り出す。
通販で取り寄せたガマグチシリーズ最新作だ。限定一万個と聞いて絶望に暮れたものだが、あっさり買えたので何はともあれ、良かったと言えよう。

「ふむ、サインとは。近頃の若者は理解に苦しむ…これも私が老いた証ですかねぇ、院長」
「アンタが老人だったら俺は何なんだ…」
「良いじゃないですか、若く見えるのは悪い事ではない。羨ましい限りだ」
「俊、赤の他人にサインなんか求めるんじゃありません。叔父さんがコネでハチローのサイン貰って来てあげるから。メジャー投手の」
「王道な野球には興味ないにょ。王道なホモにしか興味ないにょ」

同じ身長の遠野一族が言い合うのを横目に、サラサラサラリとサインを果たした男は、腹黒さを窺わせない微笑一つ、

「天の君、少しばかり時間はあるかね?私とお茶をしないか」
「ふにゅ。ナンパ?このオタクめに何と懐が広い!コーラゼロで宜しければお出ししますっ、僕の部屋の蛇口がっ」
「だ、駄目だ駄目だ駄目だ!いけません、俊!叔父さんは許さないぞ!」
「何を騒いでらっしゃるんですか、お父さん」

世界が凍り付く声音に、オタクと医者が抱き合いながら振り向いた。
凍るアイスブルーの瞳で吹雪を巻き起こす長身が、シルクのパジャマ姿で佇んでいる。その隣には、ナイトキャップを被った金髪も居た。

「カズカ、あれがカズカのパパなのか?あんまり似てないな」
「目障りだロイ、消えろ」
「眠いのに弟の動画ムリヤリ観させておいて、その言い草か!Japaneseの風上にも置けない奴だ!」
「黙れ。黙らせられたいか」
「ソーリー、ビーサイレント、オッケー」

デカい金髪は近場の隼人の背後に隠れ、ぷるぷる震えている。真顔で外国人を蹴り飛ばした隼人は、アッと倒れ込む長身を暫し眺め、要を見た。

「カナメちゃん、『あの時』以来初めて、自分から雄に勃起し掛けちゃったあ」
「…っ、黙れ恥曝しが!殺されたいのか貴様…!」
「あは、ヤキモチ焼いちゃったあ?だいじょーぶ、半分しか勃起してないからねえ。やっぱりあの時のカナメちゃんは、」
「黙れと言ってるだろうが!」

素早く隼人に掴み掛かった要が、隼人を投げようとして失敗する。どうやら尻を撫でられたらしい。
無表情で俊に駆け寄った要が、俊の背後から鋭い眼光で隼人を睨んでいる。

「総長!あんな奴はすぐにっ、」
「錦鯉きゅん」
「何ですか?!………あ…」

はっと口を塞いだ要に、首を傾げたオタクはニコッと笑った。

「ま、いっか。どうせ勝負に負けたら、左席委員会解散するんだし。ピーッ、左席委員会っ、しゅーごー!」

ガマグチレッドから笛を取り出し、鋭く吹き鳴らしたオタクの前に、ふらふらとカルマのワンコが整列する。

「何だ?何かあるのか?」
「あ、多分、臨時会議です。中身は大半どうでもいい話なんですけど」

自分より小さい太陽の背後に隠れていた遠野医師はキョロキョロと辺りを見回し、少し離れた位置で珍しく目を丸めている車椅子の男を見た。

「僕ちん、あそこ美形お兄さんとお茶するにょ。でも一人で行ったらまた怒られちゃうから、付いて来てちょ」
「俊、待ってくれ。俺もお前に話があるんだ」
「ほぇ?もしかして直江叔父さん…僕にしか言えない話だったり…?」
「…そうだ。叶さんも同席するが、本当は、」
「じゃあ叔母さんと離婚してBL再婚するつもり?!舜は知ってるなり?!カズ兄が反対すると思うけどっ、僕は応援してるにょ!眼鏡の底から応援してるから…ね!」
「はい?」
「おや。では院長、私を娶るつもりだったのかな?弱ったねぇ、家長の私が婿入りするとなれば我が家は誰が…ふむ。ふーちゃんに継がせれば良いか」
「アンタも何を言ってるんだ?おい俊、どうしたら俺が離婚する話に発展するんだ。再婚なんかしないぞ、確かに尻に敷かれて肩身メチャメチャ狭いが…」
「お父さん、離婚するなら私も舜も引き取って下さい。…舜ちゃんと別々の名字になるなんて、兄ちゃん考えられないよ〜!」

キャラが変わった西園寺会長が実の父親の首を掴み、ギュウギュウ締め付けながら錯乱中だ。
一部始終を見やり、呆気に取られた太陽は俊の手にあるプチガマグチのサインに気付き、眉を微かに潜める。隼人に蹴られ健吾に蹴られ、裕也に無視された外国人は今や、体躯を丸めて太陽の背中に張り付いていた。

「ご苦労様です、西園寺副会長」
「うっうっ、西園寺も帝王院も、日本人の優しさを忘れたデビルしかいない」

よしよしと嘆く男の頭を撫でながら、俊のガマグチに手を伸ばす。

「なァに?」
「これ達筆過ぎてあれだけど、叶、って書いてある気が」
「叶冬臣と書いてありますねぇ」

背後で外国人の悲鳴。
倒れ込んだ長身の上に、傷一つない白い革靴が見えた。

「おや、ご無事で何より。御身が危ないと報告を受けて後れ馳せながら参りましたが、ご機嫌如何ですか?天の君」
「お疲れ様ですん。お陰様で眼鏡がハゲるほど萌えてますっ!ハァハァ」

太陽の腹に巻き付く、腕。
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©Shiki Fujimiya 2009 / JUNKPOT DRIVE Ink.

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