紅き黎明の花嫁

唯一神の住まう玉座

願う騎士と望む神帝

願いはただ一つ、






『狼藉者めが…!』
『命に代えても殿下の元へは通さんぞ!』


そう、いつも願いはただ一つだけだ。



『よォ、…我が月宵騎士に身一つで乗り込むたぁ、健気じゃねぇか。
 冥土の土産に俺様の名を名乗ってやる。月宵騎士団副長、グレイブ=フォンナート様だ』

この身には人成らざる異端の血が流れていて、




『…カイ=シェイド』

いつもいつも、猛獣に似た唸りを上げている。餓えたまま、




『俺が、ルーク=フェインに成り代わる』









今も、尚。




















「唯一適わぬは永劫の黒、か。黒はラグナザードの国色だぞ、たわけ者が」
「つーかこれって、一昔前に流行った歌っスよ。今じゃ小説漫画だけに留まらず、歌劇の題材にもなってるみたいスけどね。ベルハーツ王子より美人でレヴィナルド皇帝より残忍なフィリスの精霊アルザーク、なーんて実在するんスかねぇ」

ベルハーツの肖像画は広く知られている。黎明騎士団に破れた各国の兵士や、フィリスを訪れた吟遊詩人達によって此処数年最も噂される他国の王子だ。
世界が誇る美女、三姫の一人と名高いエリシアの息子にして世界で最も神々しいと言われているシャナゼフィスの特徴を受け継いだ光の化身。

纏う緋色の衣は黎明の証、世界三代王子の一人と噂されている。残りの二人はジークフリードとフェインだ。
臣下でさえフェインの素顔を見る事のないラグナザードに於いて、この世で最も美しい白銀と崇められる長髪に、ルビーの様な紅の瞳を持つルーク=フェインは、ジークフリード以上の美丈夫と名高い。気位と同じく美意識の強かったレヴィナルドが、終生『我が宝石』と褒めて憚らなかったのがそれを証明しているだろう。


「ま、所詮フィリスの田舎者如き、陛下にもあの根暗師団長にも勝てやしませんよ。陛下がもうちょっと小さくてボインだったらなー、俺様ももっと仕事に精が出るのになー」

魔王に並ぶ長身であるグレイブがぼやくのに、当の神帝以外が眉を寄せた。
確かにグレイブはジークフリード以上に雄を感じさせる色男だが、フェインの隣に並べばその長身も色気も金の髪も見劣りする。纏うオーラが根本的に相違しているからだろう。

「貴様だけは兄上に近付くな。陛下が穢れる」
「何よ〜こんのブラコン野郎〜」
「…フィリス第一王位継承者、か。事実ならば、私と酷似した立場と言える」
「冗談はやめてくれ、我らが神フェインに並ぶ人間が存在して堪るか」
「本気で言ってるからブラコンって困るよね〜、っ痛!」
「黎明の中にアルザークらしき姿を見た人間は居ない。ベルハーツに一つ年上の兄が居るのは事実だろうが、人の噂を裏付ける証拠が何一つ無いんだ」

横槍を入れるグレイブを涼しい顔で殴り付けたジークフリードは、鋭利な美貌に僅かだけ嘲笑を滲ませる。

「生きているのか死んでいるのか、何故アルザークが黎明の総帥ではないのか。…確かな根拠を持つ情報が欲しい」
「もしかしたらベルハーツは兄の影武者で、黎明を動かしてるのがアルザーク本人なのかも知れないっスよ〜。そうだとしたら、アルザークはジークフリード閣下より腹黒なのかも〜」
「俺の何が何だと?お前の腹を捌いて、墨袋を取り出してやろうか、あ?」
「俺様のお腹なんて閣下と比べたら純白ですとも!」

力強く吐き捨てたグレイブが素早く逃げ去り、無表情でそれを追い掛けていくアスリートな宰相と熾烈な争いを始めたらしい。

遠くから何かが割れる音やら誰かの悲鳴やらが聞こえてくる。
不安げな職員を余所に、然しただの詩を並べただけの紙から目を離した男には興味がない様だ。



無駄の無い所作で立ち上がり、薄い報告書をグレイブの散乱した書類の山へ放れば、指を鳴らしただけでその紙に青い火が点る。

誰もが息を呑み、誰もがその炎の出現に狼狽した。





「ベルハーツだろうがアルザークだろうが、どちらでも構わん」

けれどその蒼い炎は、書類の山の上でたった一枚の紙だけを燃やし続けている。




炎も人の流す血液も、全て。







「…もう一度、見てみたいだけだ」


記憶に残るあの赤には、到底適わない。
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©Shiki Fujimiya 2009 / JUNKPOT DRIVE Ink.

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