紅き黎明の花嫁

唯一神の住まう玉座

暁を見た者は瞳を閉じる

「あ一、何でこんな時間が懸かったんだ。急けば半日、旧型飛行船でも一日で辿り着くストラに二日懸かったのは何。
 そして今尚歩き続ける羽目に陥っているのは何故でしょー」
「カッツィーオ隊長、残念な事に流石の俺でも天候を左右する力はありません。行く所行く所、快晴続きの兄さんみたいには行きませんよ。ああ、流石俺の兄さん…」


吹き荒ぶ砂嵐の中に放り出された二人の人影がある。どうやら大陸全土を覆う分厚い雲が暴風を巻き起こしている様だ。

余りの悪天候故に、首都圏から随分離れた場所へ着陸した太陽の国旗を掲げた飛行船は、動力部に砂が詰まってしまい離陸する事が出来なくなった。
砂嵐の中、ド派手なベルハーツ号と嵐の中に出る勇気の無いパイロットと涙の別れを果たして早半日、ベルハーツ=ヴィーゼンバーグとトロイ=カッツィーオは白けた微笑みを浮かべたままひたすら歩いている。



「煙草吸いてー」
「砂でも吸っていなさい」


目的地は未だ見えない。



「そもそもストーンフォートで団長が老若男女に囲まれまくってなけりゃ、もっと早く到着して今頃『あー良い砂嵐ですね』なんて茶ぁ啜ってられたんじゃないんですかねー」

白髪のベリーショートヘアに黄砂をまぶした男が、火の付かない煙草を咥えたままのたまえば、

「そもそも『駄菓子友好貿易のお誘い』なんて全く意味不明な文書を誰かさんが受け取っていなければ、俺は今頃いつもと同じ様に兄さんといちゃいちゃしてたんです」

金髪に黄砂をまぶしたキナコピナタが何だか美味しそうな風体で言い返す。

「ンな事言ったって仕方無いでしょう、ピヨンの奴が咥えて来たんですよアレ。船便で届いたっつー手紙をあの唇で咥えて来やがったんです。オレにどうしろっつーんですか!」
「…顔に似合わず、本当にニャムルが好きな人ですねぇ」

一見すると毎晩女性と遊んでいますが何か、と言う風情のカッツィーオは、その外見とは正反対に日がな1日ぼーっとしながら温かい黒煎茶をお供にニャムルと戯れていたい、などと公言する若年寄りだ。


「まさかとは思いますが、貴方ピヨンと結婚しようとか考えてませんよね」
「…アイツは言いました」



ぴよん、お〜じさまのはなよめにょ。かつお、けっこん、やー。



「それは、…お気の毒に」
「ですがオレは大丈夫です、花婿にならなってくれると約束しましたから」



ぴよん、だんなさまになるにょ?
かつお、ぴよんのおよめさん、トトつくれ〜。




「最近、非番の日は毎日料理教室に通ってます。エルボラスを捌くくらい何て事ない」
「良い医者を紹介…いや、部下の幸福を願っておくだけにしましょう。兄さんの嫁の愛人業、頑張って下さ………寧ろ兄さんからピヨンを遠ざけろ、早い内に。

重度のブラコンは最後に本音を覗かせた。『悪魔』が姿を現したとでも言おうか。
普段は貴公子なのに、キレた時だけ口が悪いベルハーツはやはりアルザークの弟なのだろう。


日夜ピヨンと熱い俊争奪戦を繰り広げてきる日向は今の所連戦連敗だ。
この綿毛踏み潰してやろうか、などと考えた日には兄が笑顔で『何かムカツクから殴らせろ』と殺人拳骨を放つ。


『ぴなた、たいじょ〜ぶ?』
『ピヨン…』
『いたいにょ、いたいにょ、とんでけ〜。あっちいけ〜』

その度にパタパタ飛んできて心配してくれるピヨンは可愛いのだが、



『…日向ァ』
『に、兄さん…』
『テメー、俺が見てないと思って…。ピヨンからほっぺにチューして貰ったよな?貰ったよなァ…?』
『あ、あの、あの、』
『一辺、死んで来るか…?』

ピヨンから心配された日向に嫉妬する俊が陰で仕返ししてくるので堪らない。



「寧ろ兄さんに蹴られるのは本望なので良いとしましょう。然し兄さんの拳骨はこの世の地獄を見る威力、半年に一度が限度です。…我ながら情けない」
「変態ですか」

流石のカッツィーオも白い目で上司を見た。


「団長まで殿下を評価する理由が判りません」
「ああ、ストルムですか。…あの人も相当執拗い男ですねぇ」
「重い剣は握れない、基本の組み手も知らない、特技は体力と敏捷さだけ。
 そんな男の何処に価値が、」
「貴様程度には到底理解出来ませんよ」


底冷えする様な声音だった。
吹き荒ぶ嵐が刹那静止した様にすら思わせるほど、その声は酷く強く鼓膜を揺るがす。


陽が落ちた空は重く暗い。

昼間でも粉塵が幕を張るストラの天空には太陽の姿はなく、今現在月の姿も見えなかった。
陽が落ちてから随分時間が経ってい?。吹き付ける風も砂も威力を増し、先程まで常夏だった気温は下がる一方、最早極寒だ。


「目に見えるものだけを理解する凡人には、…思い込みの尊敬を抱く凡人には。永劫理解する事など出来ない」
「は…?
 ちっ、また風が強くなってきた。団長っ、右方向に光が見えます!」


誰も何も知らない。
ルミナスの悲鳴を
知っていても口にしてはいけない。
アーメスの慟哭を

黎明は常に太陽と共に在ると、初めから決められているからだ。





『退け、蛮族の民共』


誰も何も知らないままでいなければいけない。
女神の涙も
知っていても知らないままでいなければいけない。
太陽神の慈悲も、
残酷なまでの仕打ちも



『黎明の裁きを畏れるならば』


これは何かの罰、だろうか。
ならばこれ以上に痛みを伴うものはない。
また、夏がやって来てしまった
また、怯えて暮らすのか、人間は
眠りに就く宝石を見守って


帰っておいでと
助けておくれと


神と名の付く全てに縋りながら


天罰は魂を根核から苦しめ続けている。これから先も永遠に、和らぐ事は無いのだろう。



「俺は退いたから、裁かれず済んだだけ。覇王は退かなかったから、…裁かれただけ」


太陽を纏う紅い緋い姿を覚えている。
そこに存在してはならない姿を
光を帯びて金色に輝く髪を



「俺は、『何もしていない』。俺は、『何も見ていない』…」


それはまるで一夜の夢の様に幻想的な光景だったと、誰もが言った。





『  の前に跪け』



あの時の台詞を、思い出してはいけない。




「アーメスが、あの人を殺してしまう」



昔話を思い出した。
吟遊詩人が歌う、名も無い話を。




さらば月の恋人 太陽嘆き 天空焦がす
黒羽の精霊に攫われし ああ銀月の涙
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©Shiki Fujimiya 2009 / JUNKPOT DRIVE Ink.

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