紅き黎明の花嫁

唯一神の住まう玉座

儚き誘いの黙示録

あの時、全てを投げ出す勇気があれば良かったのだろうか。


今まで生きてきた時間も、手に入れた経験も何も彼も全て、捨ててしまえば良かったのだろうか。


惨めにけれど必死に足掻けるだけ足掻いて、剣の振り方も力の使い方も判らないままただひたすら必死に手を伸ばしていれば、愛しい熱を失わずに済んだのかも知れない。





『これが、お前の復讐か、アーメス』


太陽を、初めて見た。
砂と機械に埋もれたこの国で、その灼熱は悪魔の様に輝いている。
呆然と空ばかり見上げる民衆に囲まれ、噴煙を上げる崩壊した都市の真ん中で。


ただただ、失った腕の重みを掻き抱きながら。



『ルミナスを葬った俺への、これが、お前の復讐か』


腕の中に、確かに抱き締めていた筈の漆黒が。
残した熱はすぐに消えてしまう。


涙など流した記憶はない。
剣を握った拳から力が抜けても、刄を鞘に収めなかったのはその時が初めてだった。



『…ならば何故、俺を殺さない』


金色、それは灼熱ながら宝石よりも気高く煌めいている。
この腕の中で、笑ったのだ。



愛していると。
空は青いだろうと。
愛していると。
ずっと傍に居ると。
愛していると。
誰よりも愛していると。



言ったのだ。



『何故、俺が生きているんだ』

ギラギラと輝くそれが太陽なのかそれとも満月なのか、それすら知らない。
全てを捨ててしまえば良かったのだ、と。気付いた時に、世界の全てが無価値になったのだ。





『…全て、冥府へ還るが良い』



何度も口付けた唇。
何度も抱き締めた体。
何度も口付けた漆黒の眼差し。
何度も梳き撫でた艶やかな黒髪。


目の前に居たのだ。
腕の中に確かに抱き締めていたのだ。



アーメスが奪った。



あの何よりも美しい生き物を。
他の何よりも大切な愛しい魂を。





『泣くな、─────カイ。』



最後の最期まで笑っていた、最愛を。








『我が混沌を前に、…全て滅ぶが良い』




神が、奪ったのだ。
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©Shiki Fujimiya 2009 / JUNKPOT DRIVE Ink.

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