紅き黎明の花嫁

唯一神の住まう玉座

離別へ向かう歯車の軋み

空にも地中にもそれは張り巡らされている。太く長いパイプの中を音もなく駆ける連結全長500メートルの鉄道車は、世界崩壊以降このラグナーク大陸へ移り住んだ建国者が、何より好んだものだと言われていた。

何千年も遥か古の話だ。


『本日もヴァルヘルムマグネスカレータご利用ご来車、誠に有難うございます。次は中央区セントラル、中央議会塔前です』

機械音声に導かれ、座席に腰掛けていた人々が俄かに騒めいた。

『証明書をお忘れなくお降り下さい』

特に小さな子供などは身を乗り出す様にして窓に張り付き、嬉々とした表情で外を眺めている。

「わぁ、お母さんっ!あれがルーク=フェイン陛下のお家なの?!」
「ふふふ。そうよ、あれが私達の神帝陛下の皇居。ジークフリード閣下やグレイブ閣下も働いているの」
「うっわー!うわーっ!おっきいなー!」

首から証明書を吊した公務員だろう大人達が降車準備に取り掛かりながらも微笑ましげに笑い、車内では静かに、と戒める者は居ない。
世界最大と謳われる巨大な塔はまるで空を貫かんばかりに、灰色の雲の向こうまで伸びていた。

「月宵騎士団の皆様も、詰所で待機しているの。地下には訓練施設があるんですって」
「ぼくも大人になったら陛下の為に働くんだ!月宵騎士団に入って、黒騎士様みたいに強くなる!」
「まぁ。シェイド様みたいに強くなるなら、お勉強ももっと頑張らないと」
「うんっ、頑張る!ベスタウォールやフィリスが攻めて来たってぼくが追い払うんだい!」

未来の騎士誕生に朗らかな車内の片隅、


「エルボラスだって闇のアルザークだって、月宵騎士団には勝てないよ!」


苦々しく翡翠の目を細めた男には、誰も気付かずに。











「信じる価値はあるか、主人」


音もなくやってきた濃い灰色の毛並みを横目に、埃臭いアスファルトへ一歩踏み出した。

「これか?」
「躍らされているのではないか?」
「確かに。フォンナート曰く、狸ジジイだからな」

中央議会塔の入り口には夥しい数の黒騎士が整列し、出勤中の職員達も何事かと振り返っている。
緩く首を傾げ目元を笑みで弛めた男に、鋭利な双眸を眇めた『彼』は唸る。
獰猛にも、賢く。

「笑い事ではないのでは?」
「お前はどう思う、カルマ?」
「我は主人の意志に従うのみ」
「賢い雄だ」

己より遥かに大きい、しなやかな体躯の黒に近い豹を撫でた男は冷酷な笑みを浮かべ、やって来るだろう来訪者をただただ待ち望んでいた。

「一同。ルーク=フェイン皇太子殿下の名の元に、ラグナザードへ敵なす全てを除外せよ」

全ての騎士が左胸へ手を当てる。
絶滅したとされるカイザーニャムルを従えた『魔王』へ、

「敵の名はリヒャルト=ウェル卿ロズシャン、並びにベルハーツ=ヴィーゼンバーグ第二王位継承者だ」

彼の手には一通の書簡。
濃灰茶の髪を埃風に躍らせた彼はサファイアの瞳を眇め、



「直ちに捕らえ、陛下の御前へ献上する。



 戴冠式は何人にも邪魔させない」
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©Shiki Fujimiya 2009 / JUNKPOT DRIVE Ink.

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